世界は四次元的に張り巡らせた無数の写真でできている。私はこれまで物理学から学んだ時空観に写真の視覚を導入して独自の世界を創ってきた。
　前シリー ズ「私の知らない母」では、時間と空間を超えた異なるふたつの写真を衝突させて一枚の写真平面に圧縮した。次は、圧縮しない、四次元時空間に写真の欠片が散らばったままの空間作品をつくりたいと思っていたが、昨秋、神戸ビエンナーレ2009招待作家展でそれを実現することができた。
　今回、この作品を東京の画廊空間に展示することになった。高さ8m幅3m奥行き20mの兵庫県立美術館回廊に設置した約3,500枚の写真プリントの中 から2,000枚ほどを抽出し、コンパクトな画廊空間に充満させた時、この作品はどのような別の顔を見せるだろうか、楽しみである。
　題材は、2008年の、満州事変勃発の地、中国・柳条湖への、虚実混交、時空を超える自らの旅、そのものである。

2010年1月　笠木絵津子

プレスリリースより