○「龍野時空街道:桜見図」

 メイン会場のひとつの旧龍野醤油同業組合醸造工場には、入口を入って正面の壁に1m×11mの「桜見図」を掛けた。ここは醤油造りの試験場だったそうで、今は国登録有形文化財である。高い梁の下の暗がりから桜の連なりが霞のように浮かび上がるようにしたいと思った。左の端を折り曲げて展示したのは、右の方に樽などの基礎が残っていて危険だったからだが、絵の左の大正時代の醤油旦那たちが右の現在の桜を眺めるかたちに原稿を修正して外観と内容を連動させた。スタッフの山根さんが3mの脚立に登りライティングの腕を振るってくれて、4月5日の桜は見事に工場内に浮かび上がった。

 左手奥の部屋からは大西さんの大きなポリシートの作品が見えて、ふわふわした白が桜の霞と繋がっている。大西さんの作品は醤油樽を思わせる大きなポリシートの袋5個がファンで空気を吸排気することによって膨らんだり縮んだりするもの、2007年の岡本太郎現代芸術賞展で太郎賞を受賞したタイプの進化形である。私はその時隣で旧満州の母をテーマとした巨大な時空写真を展示した。大西さんは再び私の作品と並ぶことを記念して太郎賞作品の進化形を考えたそうだ。

 太田さんは20年前に津山で採取した紅葉したモミジバフウの葉ッぱを手前の醸造水槽の中に散らした。私は時間的に龍野の紅葉の作品はつくれなかったが、太田さんと「花ともみじ」の共振をすることができた。

 さて、右手の暗がりに浮かび上がる不思議な同心円状のアニメーションはポーランドの作家ボサツキさんの作品。じっと見ていると同心円はゆらゆらとかたちを変形させてなにやら時計の針のような二本のバーと二人の人がぐるぐる回る。座標XYはそれぞれ独立に目盛を変化させ、それに合わせてぐるぐる回る人は大きくなったり小さくなったり太ったり痩せたりして一時も同じでない、見る者は永遠に見続けてしまう。初めはアインシュタインの相対性理論を絵にしたのかと思ったが、よく見ると物理の話を絵解きしているわけではなく、シンプルにものの見え方の相対性を暗示する作品だと解釈した。

 そして、これらの美術作品の間を床から這い上がるように流れる音楽がある。大西作品の隣に仕掛けられた薮田翔一さんの音は時に大きく時に微かに作品間を満たしていく。

 このように、ここでは、時を超える具象の桜ともみじ、時間変化する体積と座標、無形抽象の音、そして龍野の歴史を溜め込んだ場の六つが絶妙のバランスで「時空の共振」をすることとなった。あの共振する工場空間を思う時、私の作品がそこに参加できたことを光栄に思う。

旧龍野醤油同業組合醸造工場

左手、太田作品のある水槽

奥の部屋から大西作品が見える

太田作品

大西作品

笠木作品

ボサツキ作品

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「龍野時空街道:桜見図」
縦100cm、横1098.4cm、四辺10cm余白
デジタル加工写真を合成紙にインクジェットプリント、表面ラミネート