龍野アートプロジェクト2016参加報告


 
2016年11月3 - 13日兵庫県たつの市龍野町旧市街各所龍野アートプロジェクト2016国際芸術祭「時空の共振」www.tatsuno-art-project.comが開催された。

 文化庁委託事業として、芸術監督はたつの市出身の京都市立芸術大学教授の加須屋明子さん、音楽監督はたつの市出身の作曲家の薮田翔一さんが当たり、美術と音楽による実演芸術が繰り広げられた。

 美術展示はポーランドからピョトル・ボサツキさんアグニェシュカ・ポルスカさん、日本から井上いくみさん太田三郎さん大西康明さん北川太郎さん小谷真輔さん芝田知佳さん東影智裕さん、そして笠木絵津子が当たった。

 ここでは、美術分野で招待展示した笠木の個人的な報告をさせていただくことにする。


笠木の参加の概容

 2016年のために「共振する時空」という展覧会を提案し、プロジェクトタイトル「時空の共振」として採用された。

 
龍野の街に取材した新作の大型作品「龍野時空街道3点を3箇所、旧龍野醤油同業組合醸造工場(国登録有形文化財)伏見屋商店アポロスタヂオ、に展示した。

 美術作家同士の「共振」を目指して「共振大部屋」を提案し、県民交流広場に、北川さんとの協働制作作品を展示した。

 ガレリアアーツ&ティーの龍野アートプロジェクト関連小品展に小品2点を出品した。

 11月3日県民交流広場のアーティストトークTで、加須屋さんの進行のもと、美術家の太田さん、大西さん、北川さん、作曲家の薮田さん、ポーランド広報文化センター副所長のマルタ・カルシさんと共にパネラーを務めた。


○最初の龍野訪問

 私と龍野アートプロジェクト2016との関わりは、2014年1月に姫路市立美術館館長の岸野さんに連れられて初めて兵庫県たつの市龍野町にお邪魔したことに始まる。たつの市は故郷姫路の西隣の市で、播磨の小京都と呼ばれる龍野町は鶏籠山と揖保川が美しい旧城下町、淡口醤油と播州素麺の産地としても有名である。その醤油蔵で2011年から現代美術の展覧会が開かれていると聞いて興味を持っていた。

 実行委員長の淺井さんとガレリアの井上さんのご案内で、揖保川を渡り龍野町に入るや、そこは「現在ではなかった」。江戸明治大正昭和が凝縮してそこに在った。街がそのままで私の「時空写真」であった。姫路も戦災が無ければこのような街並みになっていただろうか。現代芸術と街が共振する光景が目に浮かんだ。

 本竜野駅は姫新線沿線にあり、私が小学生の頃は姫津線と呼ばれて姫路から津山に通じていた。津山には植物の種や切手の作品で有名な太田三郎さんという現代美術家がいらっしゃる。私は太田さんを「時空の作家」と認識していたので、太田さんとご一緒に「共振する時空」という展覧会をしたいと淺井さんに提案した。

 そうこうするうちに、岡本太郎現代芸術賞展でご一緒した大西康明さんから大阪で展示をするという案内が届いた。ポリシートなどを使って虚の体積を表現するインスタレーションは大変興味深く、9年振りに龍野でご一緒できればと思った。

 芸術監督の加須屋明子さんと石彫の北川太郎さんに初めてお会いしたのは2015年5月の私の姫路での個展であった。龍野アートプロジェクト2016が、音楽と美術そして日本とポーランドの作家による実演芸術というかたちの国際芸術祭「時空の共振」としてまとまり本格的に動き始めたのは2016年の春以降である。


○制作開始

 私はこれまで過去写真と現在写真をパソコンで交錯させて「時空写真」というものをつくってきた。写真は時間と空間の中の一点で起こる現象を記録するが、時空のかけ離れた二点で撮られた写真を並べればタイ ムマシン効果を生みその断層は人に第三の世界を見せてくれる。

 龍野をテーマとした作品を、という実行委員長からの要望を受けて、龍野の現在写真を撮り龍野の過去写真を探して龍野の「2次元時空写真」をつくろうと決めた。「2次元時空写真」は以前「ふたつの時間を持つ写真」と呼んでいたもの。「柳条湖」の作品などの「3次元時空写真」を2次元に圧縮したものが「ふたつの時間を持つ写真」である。

 そのままで既に「時空の街」である龍野であるが、私はあえて「時空写真」の方法でこの地と向き合うことにした。

 以前ガレリアの井上さんにN家に昭和初期の素晴らしい桜見の写真があると聞いていたので、まずは4月に桜の写真を撮りに出動、果たして、5日は龍野中が満開の桜で人々がその下で桜を愛でていた。一日中桜を取り巻くった。その時もう展示作品の全体が見えた。横長の絵巻物風画面、タイトルは「時空街道」。ひとつが「桜見」の図、過去と現在の桜の下で過去と現在の人が桜を愛でている、そんな龍野の文化を象徴するようなもの。ひとつは最初に龍野橋から見た城下町のパノラマ。ひとつは城下町の街並みと歴史をテーマとしたもの。鍵は過去写真がどのくらい集まるかであった。撮影と過去写真収集のために計3回龍野に通い、延べ一週間ほど取材をした。過去写真は個人のお宅のアルバムや出版された写真集から探した。千葉の仕事場では歴史の勉強や下絵シミュレーションを繰り返した。

 実際に動き始めてから、はたと気がついた、美術作家同士の共振の場がないと「時空の共振」としては完成しないのではないか。会場には龍野町の古い公共施設や民家が選ばれているが、大きな空間は少なく、主に一作家一部屋という展示スタイルになる。加えて美術制作は個人で時間をかけてつくる場合がほとんど、なかなか共振するのは難しい。しかし、実験的でも良いから共振する場所をと提案して、それが県民交流広場の展示となった。私は北川さんと床の間でコラボレーションすることになった。

 取材は7月末までに終え、まず下絵を完成させてから本制作にはいった。横長の大画面なので分割制作しなければならない、9月末までパソコンの前で苦闘した。10月初めにプリント会社に原稿を渡した後は北川さんとのコラボ作品の準備に没頭した。10月30日、芸術祭オープンの4日前に龍野で展示作業を開始。事務局スタッフの山根さんとたつの市在住の友人たちにサポートしてもらう。地元の建築設計工房の岸野さんが立派な木製土台を設置してくださったので、大型合成紙の作品を直接釘打ちすることができた。2日でメイン作品3点を展示し、1日半で県民交流広場のコラボレーション作品を設置した。

龍野橋

旧龍野醤油同業組合

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