展覧会意図:


 2003年より、異なる時間と空間で撮影された写真をパソコンで重ね合わせて、「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」などのデジタル作品を多数制作してきた。今回は、「家族写真による時間軸」で曲がった時空をつくることを試みる。これは「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」ためのもうひとつの方法である。



作品解説:


 「時空写真」とは、相対論的4次元時空に写真を導入し、時空の異なる2点で撮影された写真をパソコンで重ね合わせてつくった第三の写真であり、これまで多数制作してきた。
 今回は、最初につくった「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」という作品の内容を実現するためのもうひとつの方法として、ギャラリー空間に「リーマン幾何学による曲がった時空」を創出する。私たちの住むこの時空は重力に支配されているが重力の場は曲がっており、アインシュタインは一般相対論を構築する中で重力場を記述するためにリーマン幾何学を使っている。

 さて、「曲がった時空」をギャラリー空間につくるためには曲げることができる時間軸を制作することができれば可能となる。昨年の龍野アートプロジェクトの中で石彫の北川太郎氏と「時空創出」という協働作品を制作した時に「家族写真の時間軸」というものをつくったが、これが有効であることに気付いたので、今回のために笠木自身の家族写真を使って新しく時間軸をつくり直すことにした。これを曲げて展示すれば付随する時空が曲がり、ギャラリー内に「リーマン時空」をつくることができる。更に、「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」を実現するために、時間軸の「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城」の部分と「2002年、横浜」の部分を交差させて展示した。

 ギャラリー名「ナユタ」はサンスクリット語で「千万または千億」を意味するという。ギャラリー内にできた一坪ほどの「リーマン時空」に無限の広がりをもたらしてくれた。



展示構成:


 「家族写真の時間軸」は笠木の家族写真でつくり直した。母方曽祖父の家族写真から現在の笠木家族のスマホ写真までを一本に編集し、幅3cm長さ約50mとした。厚手インクジェット紙光沢で両面印刷。ほぼ一坪のギャラリー空間に直線的または曲線的に張り巡らした。一箇所だけ、「1924年朝鮮鏡城」の部分と「2002年横浜」の部分で交差させた。

 入口壁にデジタル作品「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」の縮小プリントを掛けた。

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