『作品「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城にて、生後百日の母を抱く」のための思考実験』
(3点連作)
39.8cm×51.4cm(額付)が3点
コンピュータ構成イメージをインクジェットプリント
2009年制作
PHASE展出品
2009年5月13-31日
銀座ニューメルサ2F、クリエイターズ・スペース
私は、2001年から2007年まで「私の知らない母
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ふたつの時間を持つ写真」シリーズ(作品集参照)を制作発表してきたが、今展では「ふたつの時間を持つ写真」がどのようにして生まれたかを作品化した。
「私の知らない母
」シリーズを見て、人は、シュルレアリズムとか、フォト・モンタージュを思うようだが、私の作品はこれらと全く別のところからやって来た。すなわち、私の過去の専門分野である物理学の時空観からやって来た。
私の頭の中には常に四次元時空間が広がっている。一枚の写真はひとつの座標(世界点)に対応しており、世界は四次元的に張り巡らせた無数の写真で出来上がっている。
さて、四次元時空間の彼方、「1924年、朝鮮咸鏡北道鏡城」という世界点に、生後百日の母を含む家族写真が浮かんでいる。「2003年、日本横浜」では、母の着物を着た私が生まれたての母を抱きしめに行こうとしている。作品では、四次元を単純化して二次元とした。
アインシュタインの相対性理論によると、過去に跳び移るためには四次元時空間を光よりも速く飛ばねばならない。科学的には不可能であるが、私は諦めない。パソコンが私を光よりも速く飛ばせてくれた。私は母の座標系に侵入し、生まれたての母を抱きしめることに成功する。
お気付きのように、この考え方の中には、人間的執念が科学的真理を超えてしまう部分がある。その部分こそがアートである。私は現在、サイエンティストではなくアーティストであるが、アートとは、サイエンスの真理を超えてしまうほどの、狂気の叫びである。
2009年5月6日
笠木絵津子